お産について言えば、「産む」主役はお母さん、「生まれる」主役は赤ちゃん、「応援する」主役はご家族、「サポートする」主役は、私たち産科医や産科スタッフです。
分娩室で、お母さんが落ち着いて上手にできている時、サポートする主役の私は、お母さんをものすごく褒めることがあります。
お上手~!落ち着いてるね~!素晴らしい!グッド~!etc.etc.
賞賛の嵐です\(^o^)/
反対に上手くできてない人には、褒めません。
できてないよー!全然ダメ~!顔が怖いよ~!etc.etc.
ええ~先生ひどい!頑張っているお母さんにダメ出しはひどいんじゃない!と言われる方もおられると思いますが。
まあまあちょっと落ち着いて聴いてください(*^-^*)
産科医や助産師でも、お産の時に、お母さんがあまり上手くできていない時でも、やたら褒める人がいます。
いいよいいよ~。大丈夫大丈夫~。できてるできてる~。etc.etc.
本当にできていればいいのですけど、上手くできていない時にもそう言われると、お母さん自身も決して上手くできているとは思っていないはずなのに、何が良くて、どこが大丈夫なのか、おそらく、ちんぷんかんぷんでしょう。
私もやっていますし、褒めるのが全ていけない、とは思いませんが、上手くできるようにリードしてあげもせず、取り繕うようにただ表面的に褒めるのは無責任ですし、お産するお母さんに対してもかえって失礼というものでしょう。
子育ての分野でも、一昔前は「褒めて育てるのがいい」とされていましたが、最近では「褒めて育てると、子どもは伸びない」とも言われています。
子どもは、褒めて育てられていると、褒められることしかしない、人の顔色をうかがう、自分で「いい」「悪い」が判断できず、決定できない、本当の価値がわからない、となってしまう可能性があります。
じゃあどうしたらいいの?ということになりますと、「褒める」よりも「認める」。
「褒める」と「認める」は、似て非なるものです。
簡単な例文を示しますと、子どもに対して「お手伝いできてエライね。」(褒める)という相手に対する評価、ではなくて、「お手伝いしてくれて助かった。ありがとう。」(認める)という自分の気持ちを伝えることにより、褒めてもらえるからやるお手伝い、ではなくて、お手伝いをしたことによりお父さんお母さんの役に立った、お手伝いの価値を実感する、ようになります。
「褒める子育て」ではなくて「認める子育て」を実践することにより、自発性のある子、創造力のある子、コミュニケーションのある子、責任感のある子、に育つようになると言われています。
これは、大人に対しても同じようなことが言えるでしょう。
岸英光さんの著書『ほめない子育てで子どもは伸びる』の「はじめに」の中に、次のような文章があります。
「ほめる」は一般的にはよいこととされています。
企業では「部下のほめ方」が研修で行われ、書店には「ほめる技術」がノウハウ書の上位にあり、ちまたでは「夫をほめる講座」まで開かれている世の中です。それらは一見、うまくいきそうな感じがします。
でも、ほんとうにうまくいっているのでしょうか?
無理矢理いいところを見つけて、ときには心にもない台詞を言うことや、相手を操ろうとする意図が見え隠れする、そこにほんとうの信頼関係があるのでしょうか?
私的には、『褒める』ことが全くもって悪い、ということはないと思っていますが、ただ無責任に褒めるのではなくて、きちんと『認めて』から『褒めて』あげるのがいいと思います。
例えば、お産の時に、あまり上手くできていない人がいたならば。
一つひとつマスターしていこう!
まずは呼吸、ゆっくり長く吐いて、吸うときは短く吸って、短く休んで、また長く吐こう!
呼吸が整うと、体も心も整って楽になるよ。
返事をしたり、会話をしたりすると、落ち着けて楽だよ。
目を開けている方が絶対楽だよ。
めっちゃ笑顔でやってごらん。痛みも楽になるから。
などなど一杯声をかけてあげて、上手くできるようになったら、思いっきり褒めてあげたらいいんじゃないでしょうか。
だから、サポートの主役である私は、お産の時は大忙しです。
上手くできているお母さんには、ただ褒めるだけですが、上手くできていないお母さんには、叱ったり、冷静にさせたり、コツを教えたり、盛り上げたり、持ち上げたり、褒めたり、なかなか大変です。
色々言っている間に、だんだん落ち着いて上手くできるようになる人がほとんどですが、中には言っても言っても上手くできず、そのままお産が終わってしまう人もいます。
そうなると、残念ながら?先生に叱られっぱなしで終わった、と言われることもあります。
私としては、その人が舞い上がって落ち着かず、上手くできていなくても、最後の最後の1分だけでも、たった30秒でも、アップセットから降りられ、着地(グラウンディング)できて、赤ちゃんが生まれ出る瞬間を実感できたなら、お母さんの満足度はグンと上がることになります。
その一瞬を信じて、私はお母さんにギリギリまで一杯声を掛けます。結構必死です(*^-^*)
一生懸命喋り続けたら、この人はきっとわかってくれるはず、その思いでやっています。
妊婦さんたちも私を信じてついてきてくれているように、私も妊婦さんたちを信じています。
「褒める」だけでは、本当の信頼関係は生まれません。
今日は、「褒める」よりも「認める」、というお話でした(*^^*)
『お産とコーチング』32~「褒める」より「認める」 |広島市安佐南の産婦人科 フジハラレディースクリニック
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