分娩進行中に、産科医や助産師・看護師が、一生懸命頑張っているお母さんを励まそうとして、
「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ!」と言うことがあります。
お産するお母さんが、落ち着いて穏やかに過ごされ、分娩自体もスムーズに順調に進行している時には、あまり言わないかもしれませんが。
お母さんがやや取り乱していて、やる気を失いかけていて、そこに立ち会っている産科医療者が、そのお母さんを何とか前向きにさせようとして。
「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ!」と言ってしまう訳です。
後ろ向きになっている人を、前向きにさせようとしているのですから、これが絶対的に問題である、ということはありません。
ただ、立ち会っている者が、穏やかに丁寧な口調で「もうすぐ赤ちゃんに会えますよ。」とか「もうすぐ赤ちゃんに会えますからね。」と客観的に事実を伝えてあげるのと。
強い口調で、「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ!」「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ!」と連発したり、「もうすぐ赤ちゃんに会えるから!」という言葉になると、少しニュアンスが違ってきます。
私もお産の現場に毎日直接関わっている身ですから、出産する方を何とか奮い立たそうと、一生懸命声をかける気持ちは十分によくわかります。
しかしここで、あえて冷静に客観的に言葉選びを考えてみると。
一生懸命に声をかける姿勢は良いのですが、「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ!」という言葉の中に、「イヤで辛いお産も、もうすぐ終わるよ!」「痛い陣痛から、もうじき解放されるよ!」というような意味が含まれてしまう、もしかしたらそう受け取れるように自然と誘導してしまっているかもしれない。
これは、気をつけないといけません。
お産が無事終わっても、「産んだ!」「生まれた!」という感想ではなく、ただ「終わった」という感想になってしまうかもしれません。
この「終わった」というのは、「イヤで辛いお産がやっと終わってくれた」みたいな感じだと思います。
お産に立ち会う産科医療者は、お産は素晴らしいもの、尊いもの、と思っていますし、出産するお母さんたちにも、そのように感じてもらいたいと思っています。
しかし、私たちの声かけ一つで、出産したお母さんの、お産に対する感じ方や捉え方がかなり変わってしまいます。
「もうすぐ会えるよ!」は、「もうすぐ終わるよ!」とほぼ同義であるように考えて、分娩進行の途中も、お産そのものを楽しめるような、言葉のかけ方が大切ですね。
そのために私は、常に心と言葉を磨いていかなければならないと思っています。